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京都の魅力を伝えます(京の行事と食文化)

みごとな退蔵院の桜に誘われて国宝・瓢鮎図の心を考えてみる

今年の桜は、妙心寺塔頭の退蔵院で、みごとに咲く桜を満喫しました。

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枝垂れ桜が満開をみせるなか、気になるのはやはり、退蔵院の国宝・瓢鮎図(ひょうねんず)。本物は京都国立博物館に所蔵されていますが、寺院にはレプリカが置かれて、そばで見ることができます。

瓢鮎図は今から約600年前の室町時代に、山水画の始祖・如拙(じょせつ)が4代将軍・足利義持の命で描いたものです。絵画の背景は深い霧のなか、高くにそびえる山がある以外は何もなく、絵画下方に、竹が生え、瓢箪を持った貪らしい男と川のナマズが描かれている構図です。
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一見、襖に描かれている山水画の風景のようにも見え、国宝の理由がわからないのですが、じつは、この絵画を国宝に格上げさせる所以となる文字が、絵の上部にぎっしりと書かれてあるのです。それは、当時の京都五山・禅僧31人の名前と落款、そして、この絵に対する絵解きの解釈を各々にのべた漢詩です。f:id:maming1965:20220423175055j:image

絵を描かせた足利義持が、位の高い禅僧31人に、「瓢箪でナマズをおさえ捕ることができるか」という質問を投げかけて、その問いに禅僧が答えている禅問答の絵画なんです。31人もの高僧が絵に対して真剣に答えているところが国宝なんだと気づくと、各々がどのような答えを出しているのか、大変興味が湧いてきます。

さて、ナマズは “ ヌルヌル ” しているし、瓢箪や近くの竹は “ ツルツル ” して、おまけに 水辺 で水が “ サラサラ ” と流れるし、皮肉にも絵画は 滑りやすいものばかりでナマズは押さえられそうになく、そんな状況のなか、禅僧31人がそれぞれの発想で禅問答を記しています。

例を挙げると下記のような答えがあります。

・瓢箪でナマズを押さえたら吸い物をつくろう、しかし、ご飯がなければ仕方がない、沙(すな)でご飯をつくろうか。

ナマズを捕まえるなら、ナマズが竹へ飛び上がるまで待て!

・瓢箪がナマズを押さえようとしているが、実は、ナマズが瓢箪を押さえようとしているのだ。結局は同じ世界にいるのではないか!

上記以外にもっと滑稽な、または、ちんぷんかんぷんな回答も見受けられ、たぶん、足利義持を囲み、奇想天外な答えには笑みがあがったのではないかと想像できます。結局、足利義持も正解を持っておらず、一つの物事にはいくつもの考えがあるということを示している絵画です。

最後に、国宝・瓢鮎図の「 鮎 」は、中国ではナマズを意味する漢字だそうで、ナマズはその土地に住みつき土地を占拠する魚であるから、魚に「 占 」をつけて、ナマズとするのだそうです。f:id:maming1965:20220423175422j:image

日本ではナマズを「 鯰 」と書きます。魚に「 念 」で、念には “ 粘る ” という意味があって、ヌメヌメ魚のナマズの漢字としたのでしょう。中国のナマズの漢字「 鮎 」にしたかったけれど、先にアユとして「 鮎 」の漢字が使われていたので、「 鯰 」となったという説もあります。

みごとな桜に圧巻でしたが、禅寺・妙心寺塔頭の退蔵院ということで、瓢鮎図について考えてみたお花見でした。f:id:maming1965:20220423175348j:image